merlinrivermouth’s diary

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日本における言論空間としてのネットと法的制約

日本におけるネット空間は無法地帯である。これは比喩的表現ではない。何故、無法地帯化しているのか?またそれは日本固有の現象であるのか?それが何をもたらしているのか?本論で解明する。

 

日本の民事上の不法行為は経済的損失によって成立する。刑事事件は公権力の介入であるため、その行使は非常に慎重である。故に刑事事件の要件に合致し、明白な経済的損失があるだけでなく、明らかな人権侵害が発生しなければ、公権力は介入しない。

ネット空間において、明白な経済的損失が考えられるのは以下の場合である。

著作権侵害

②個人に対する名誉毀損

③企業に対する名誉毀損

①た③については言論空間が議題である本論とは外れるため、扱わない。

ネット上において、個人に対する名誉毀損が明白な経済的損失をもたらす場合とは、状況が制約される。

①被害者加害者ともに個人が特定されていること。

②被害者の個人が特定されており、社会的地位が明白であること。

③プロバイダーが加害者の個人情報を開示すること。

日本において、参加者の特定性が確定している大手ネット空間はFacebookしかない。Twitterやブログは両者が混在している。その他は匿名である。言論空間が議題であるため、発信者がその場に存在しない特定個人を誹謗したり中傷する場合を除く。言論空間としては法律的制約を受けるのは、FacebookTwitterが限定的な状況にある場合のみ、ということになる。

 

では、日本以外においても無法地帯が当然であるのか?であるが、無法地帯であるのは日本だけである。アメリカでは刑事罰のスランダーが適用される。要件は非常にリーズナブルで、その場の信用を貶めることであり、どちらかが特定個人である場合、300万ドル以下の罰金で加害者が精算できない分は3年以下の労役または10年以下の社会奉仕活動で賄う。ヨーロッパでは、匿名サイトと言えど擬似的に特定性を付与し、プロバイダーは訴求するための加害者の個人情報の開示請求を拒むことはできないし、拒むこともない。韓国では、基本的に全てのネット空間は実名が義務付けられている。

日本と違い、大手プロバイダーは明白な規約違反を削除しなかったり、明白な不法行為を行った加害者への訴求を行うための開示請求を拒絶したりしない。これは大手プロバイダーに善管注意義務が発生するためということより、大手プロバイダーはネットというマーケットを拡大する意図と責任があるため、一定の適正化が必要と判断しているためだ。ネットに限らず、日本企業はこの種の発想が常にない。日本のプロバイダーは目前の広告費だけで利益が上がるため、わざわざ管理業務にコストを払いたくないのだ。

 

日本のネット空間は基本的に無法地帯だから、無法地帯になるのは当たり前だ、というのが一般的な考えである。しかしそれでは少し短絡的であるように思う。参加者はそれでも一定の社会性はあるはずだし、日本人は世間がある文化だから、法律がなくとも内部規範的な何かや法律に準ずる内部規約があっても不思議ではない。だが、現実にはどのような議題であれ、大なり小なり無法地帯というだけでなく社会通念や世間的常識を無視或いは否定し、無軌道で、暴力的で、無秩序である。それは何故か?

日本のネット空間を牽引してきたのはネット民と呼ばれる匿名サイトを牽引して来た人々だ。彼らは2chから始まり、今に至る。2ch当時から日本は完全匿名が基本であり、無法地帯で、無軌道で、暴力的で、無秩序だ。いやむしろ一般的には無法地帯と評価される今現在の方がプロバイダーが訴訟で負けたり、行政指導を受けたり、多少は管理権を発動したりするので、マシかもしれない。そうなれば、今でもネット空間をネット民が牽引するのは当然だと言える。無法地帯かつ無軌道かつ暴力的かつ無秩序にシンパシーを覚える一般社会人など、殆どいないからだ。日本のネット空間はネット民が最初から現在まで独占支配していると言っていい。

プロバイダーがネット空間を非社会的なものに留めている以上、実際にネット空間を利用しているネット民次第ということになる。ネット民は現在の日本のネット空間における言論空間を法秩序がある社会性のあるものに変えたいと考えているのか?或いは準法秩序的な社会と接合するものに変えたいと思っているのか?

私は馬鹿馬鹿しい疑問だと思う。そもそも順序が逆なのだ。最初からネット民が一般社会人のように一定の社会性があるのが多数派であれば、2chは違う形式として存在しただろうし、ネット空間も今のような形になっていない。今現在のネット空間はネット民がまさに望んだ形だ。いやむしろ2chと違って、多少法律が介入したり、プロバイダーが管理権を発動したりする分、理想とは思っていないかもしれない。

ネット空間を合法化しようという動きは、ネット民からすれば、大多数派の一般社会人がネット民からネットの支配権を奪うという話に他ならない。

 

論旨を変え、ネット空間の言論空間としての適格性に話を移す。ある研究では、炎上という現象はせいぜい参加者の数%しか関わっていないという。また違う研究では、ネット空間は即応性があるので熟議に向いていないという。つまり、ネット空間というのは情報の発信と情報の検索に向いていても言論空間としては不適だということだ。

とはいえ人口の増大と専門領域の増加は特定の層にやはりネットを言論空間として必要にさせる。例えば、ネトウヨについて研究するために議論する時、A大学の政治学助教授とB大学の社会学教授、C企業の役員、D企業のコンサルタントがお互いに連絡先を知っていて、事前に会合や議論の場を設定するには非常に無理がある。

故にある一定の階層はそれぞれにバックボーンを条件として言論空間としてのネットを持っている。日本だとて例外ではない。知的階層や意思決定階層は別に日本のネットが言論空間として破滅的であっても直接的な影響はないのだ。

しかし、この状況は知的階層や意思決定階層ではなく、ネット民ですらない、一般の大多数の日本人にとって不都合である。というのも大多数派の日本人にとって言論に参画する自由はあっても参画する場はなきに等しく、マスメディアが体制迎合的な現状に至っては、真実に近い情報に接することすら難しいからだ。今や労働運動や市民運動は低調であるし、中間団体的束縛が解かれ、個人化が進行しつつある。これは日本においても、現実社会にて、議論する機会を設ける必要が出てきたということだ。にも関わらず、大多数派は蚊帳の外のままというのは社会の正常な発展に禍根を残す可能性が高い。

ネットの合法化は難しくとも、一般の日本人が参画し得るレベルでのネット空間またはプロバイダーまたはウォールはやはり必要なのである。

 

ネット民に話を戻す。大多数の一般社会人がネット空間を言論空間として利用できるだけのプラットフォームがあったとして、ネット民が阻害要因になる可能性や阻害要因になったとしてどこまで悪影響があるか?について予測する必要がある。そのためには、やはり、まずはネット民について知らなくてはならない。

ただ、本論の結論としては、日本における言論空間としてのネットが使用不能になっている原因は無法地帯であることとネット民である。

 

余談)数年前、ネトウヨが同人誌の児童ポルノ禁止法適用について反対していた。表現の自由を盾に。私は最初ネトウヨがそう主張していると気が付かなかった。おそらく読者も何かの冗談だと思うだろう。本当のことである。私はネトウヨがオタクだから反対してるんだろう、程度にしか考えなかった。

数年前、ネトウヨヘイトスピーチ規制に反対していた。表現の自由を盾に。私はネトウヨがヘイターだから反対してるんだろう、程度にしか考えなかった。自民党憲法草案に賛成してるのに変なの、とは思った。

去年、ヘイトスピーチ規制に賛成しているネトサヨにヘイトスピーチ規制の問題点と現状、むしろネット規制の方が妥当性がある旨を伝えた。総出で攻撃された。当時としては謎であった。

今となっては、3つの出来事が全て同じだと分かる。彼らは社会や世間つまり彼らが言うところのリア充に彼らの殆ど唯一の居場所の支配権を奪われたくないのだと。ネット民からすれば、ネット規制に繋がるような動きは生存圏の危機である。必死になる決まっている。

ネット規制→ネットの現実化に反対する癖に、ネトウヨネトサヨという現実化を目指す政治運動をやるのは、いささか矛盾があるように思えるし、ある種シュールである。

次はネット民のこの矛盾がテーマである。