merlinrivermouth’s diary

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(日記)Closer サイトウケイスケさんの個展

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芸術作品はパズルだ。何かを訴えたい情熱がなければ、作品を作ることもない。観る側や聴く側が作品内の情熱を読み解ければ、心を揺り動かされる。

小説であれ、詩であれ、音楽であれ、映画やドラマ、演劇、そして絵画も、およそ表現媒体とされるものは、多かれ少なかれ、単刀直入に説明し得ない主張を別の方法で表明する表現手法である。

である以上、およそ全ての芸術作品には物語がある。小説、詩、音楽、映画、ドラマ、演劇、絵画は表現としては平面であるが、主張や背景となる物語は四次元だと言える。

見てくれが美しいというのは、ポピュラー化するための要素である。だが、芸術としては主張したい四次元の物語ないし主張が伝わりやすく、かつ説得力があることが評価対象になる。

ポピュラー化を捨てることはできない。作者の物語や主張が強いのであれば、より多くの人に届けたい筈だからだ。閉鎖的なサークルで通じればいいという物語や主張は大して強くはない。強くない物語や主張に大きな意義などない。芸術は可能な限り、普遍を目指すべきだと僕は思う。

だが、ポピュラー化を目指せば、表現や技巧を突き詰めない限り、物語が安っぽくなる。主張や物語が簡潔であればあるほど、表現の技巧に頼らなくていい。技巧に頼らなければいいのであれば、マーケットをより意識できるようになる。

芸術とポピュラー化の両立は適切な妥協とバランス、高度な技巧によって成立している。そしてそれは決して主張やバランスを捨てたということではない。強い主張や物語が込められた作品がポピュラー性をも獲得しているのは、偉大なことだ。

 

作品を観たり、聴いたりする人の中には作品の見方を知らない人もいる。作品には必ず主張ないし物語があり、作者が伝えたいのはまさにそれで、それを伝えたいからこそ、作品が成立する。

芸術はスポーツではない。見た目に美しい、技巧的だ、変わっている、オシャレ、人気があるというのは表面的な事象でしかない。

作品に感動し得るのは、その作品の主張や物語を理解し、共感した時、即ち説得された時だ。しかし、観る側聴く側にその用意や意図がなければ、理解しようもなく、従って共感や説得もない。そして客の態度は作者にはどうしようもないことである。

だから、観る側聴く側の僕が前提として、観る側聴く側にこれを説明しなければならない。

作品には必ず主張ないし物語があり、それに共感できるまでがゴールであり、醍醐味でもあるのだから、じっくり観察したり、聴いたりして、色々考えて、パズルを解いた方が絶対面白いすよ、と。

 

https://www.gankagarou.com/show-item/202201saitokeisuke/

僕がサイトウケイスケさんの個展に行ったのは、歯の治療のついででした。みなさん、歯磨きだけでなく、フロスも忘れてはなりません。さもないとベットに据え付けられて、好き勝手やられることになります。そういう趣味の話をしているのではない。

…麻酔をしたので、30分ほど飲食禁止状態でした。そこで、僕がファンをしている相原美咲さんがこの個展をおすすめしていたので、近いし、行ってみようとなりました。彼女のSNS見ると、芸術に対して知識と眼力があるので、あまり表に出さないけれど、相当な教養があるんだろうと思います。僕なんかほぼ知識ないすから。なんでも才能で突破しようとするきらいがある、サボり魔です。頭を使うのが好きなのではない。暗記とか調べ物がきらいなだけだ。

…前提知識ゼロだったので、絵の前に10分座っても、なんでこうなのかパズルが解けませんでした。良い子の皆さんはテスト前に勉強することを忘れないようにしましょう。地道な努力こそが真の価値です!才能で突破しようとすると僕みたいに「ずいまぜん!わがんないです!!」と作者本人に助け舟求める羽目になります。

サイトウケイスケさんは親切な人だったので、作品の背景を教えてくれました。いやーポーランドのとある大作家なんて、やりとりしてる側がポーランド語できねーつってんのにポーランド語で返信してきて、「王族に使う、最大級の敬語を使え」とか言ってきますから。うちの先生が被害者です。ありがとう!サイトウケイスケさん!

サイトウケイスケさんの作品の多くはオタクとその媒体との関係性を表現したものです。すげーアイロニカルでした。ただオタクやその媒体の、ガッツリ当事者だったなら、僕なら気が気でなくなります。

サイトウケイスケさんは自らオタクと言ってましたし、メタル好きだと言っていたので、「この人、自虐ネタが好きに違いない。さてはマキシマム・ザ・ホルモン好きだな?きっと同類というか同根だ!」とか勝手なアホな推測をしましたが、聞くの忘れました。

僕が最も気に入った作品はサイトウケイスケさんがオタクとその媒体を描くようになる前の作品です。

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僕は最初全然わかんなくて、ずっーと座って観察してました。予習しないとこうなるんですが、「一人でできるもん!」とかいうイミフな意地の張り合いの競争を脳内でやってましたね。結局、答え聞いちゃったんすけど笑

サイトウケイスケさんは福島の震災即ち東北大震災を経験しています。これはそれ以前とそれ以後の世界観を表現しています。

僕はサイトウケイスケさん本人には聞けませんでしたし、これはあくまで一般論です。

日本人の偏見、日本政府と東京電力との補償の争い、国の建前と本音…福島の方々は、震災以前は体制側として、世間サイドとして存在でき、何の疑念もなく、自民党を支持できるような一般的な日本人だったでしょう。しかし、実際にことが起きたあと、体制側が行ったのは切り捨てでした。日本政府と東電の不誠実な対応はほぼ自民党一択だった地方の人にとって衝撃的で、体制側すなわち世間サイドから梯子を外されそうな状況はこれまでの日本社会や日本人観が揺らいだ出来事だったと思われます。

これまで明白だった見方が急にあやふやになる。それを表現した作品です。

誰しも、それまで疑わずに信じてこれたものが急に信じられなくなり、物事が曖昧になる時を一度は経験しているとは思います。まさにこの作品はそれを表現していて、「すげ〜」と感じました。

自分の新しいパラダイムは自分で作らねばなりません。

 

そんなこんなで、サイトウケイスケさんとは仲良くなりました☆